霧化分離(むかぶんり)の技術

はじめに: 超音波霧化とは

超音波照射によるミスト発生
数ミリ秒の内にナノサイズのミストを非加熱で発生させます。(同志社大学土屋教授の撮影による)

超音波霧化(ちょうおんぱむか)とは、液体に超音波を照射すると、霧(ミスト)が発生する現象です。
超音波霧化器として、一般的な加湿器や、除菌噴霧器、耳鼻科のネブライザー、専門的なところでは塗装業などに使われている身近な技術です。

※ 超音波霧化の現象自体は既に19世紀末より知られています。松浦一雄 「蒸留器代替技術としての超音波霧化分離装置の開発」

弊社の霧化分離®(むかぶんり)は、この超音波霧化を分離工学に利用したものです。

超音波霧化分離とは


超音波霧化分離(ちょうおんぱむかぶんり)とは、混合溶液に超音波を照射してミスト化し、物質を分離・精製・濃縮する技術です。
従来の、混合溶液を加熱して分離・精製・濃縮する蒸留法に比べ、大幅にエネルギー消費量を削減できます。
※ 超音波霧化による分離・精製・濃縮技術は、弊社代表取締役の松浦一雄らにより1995年に報告されて以降、研究が進んできました。(» 松浦一雄 論文一覧

蒸留と霧化分離の違い

蒸留による物質の分離
蒸留はすべてバラバラに
熱というコストをかけて、すべての物質のつながりをバラバラにする。

超音波霧化による物質の分離
霧化は物質の種類ごとに
霧化しやすい物質同士は、液体の中でもともと固まって存在している。同じ物質同士のつながりはそのままに、霧状になりやすい物質の固まりと、霧状になりにくい物質の固まりのつながりだけを絶つため最低限のコストで済む。

混合溶液を物質ごとに分離するには、そもそもすべてをバラバラにする必要などなかったのです。もともと同じ性質の物質同士はかたまって存在しており、そのかたまりの単位で分けてやれば良かったのです。これは多くの人が見落としていた盲点でした。

超音波霧化分離装置の仕組み

霧化分離装置の分離原理

液体には、霧状になりやすい液体と、なりにくい液体があり、それぞれミストの大きさ(粒径)とミスト生成速度が異なります。その差を利用して液体を分離・精製・濃縮します。
ミストが分離装置であるサイクロンを通過する際、重いミストは落下しますが、軽いミストはコンデンサーへ移動し、冷却され再び液体化します。

超音波霧化分離の動作原理

超音波霧化分離の原理「ミストの粒径分布」
  1. 霧化槽に入れた混合溶液(母液)に超音波を照射し、極小サイズのミスト※を発生させます。
    ※マイクロメートル以下
  2. 発生したミストは、ミスト表面からの蒸発を伴いながら、粒径の大きいもの同士、小さいもの同士の固まりに分かれていきます。
  3. 粒径の大きなミストには高分子量の物質が含まれ、粒径の小さなミストには低分子量の物質が含まれます。
  4. 発生したミストをキャリアガスで霧化槽から排出します。
    キャリアガスは多くの場合、空気で十分です。
  5. その後、サイクロンを通過させます※。
    大きなミストはサイクロンの下に落ち、小さなミストは落ちずにサイクロンをすり抜けるため、低分子区分と高分子区分を分離することができます。
    ※分級器にはサイクロン以外を用いる場合もあります。
  6. サイクロンをすり抜けた小さなミスト(低分子区分)は、大気中に放散するか、冷却して回収します。
  7. サイクロンから落下した大きなミスト(高分子区分)を母液と混合すれば、濃縮液が得られます。

混合溶液の種類によって装置が異なってきます。ご相談ください。

超音波霧化分離のメリット

エネルギー源は電気のみ

電力のみで稼働

従来の蒸留法では大量の化石燃料が必要でした。超音波霧化分離装置は、蒸留装置を使用した場合に比べ、使用エネルギーを約3~7割、CO2排出量を約4~8割削減できるケースが多いです。
従来の蒸留装置や蒸発缶は、装置の操作用電源に加え、ボイラーの取得やその燃料が必要でしたが、超音波霧化分離装置は100~200V電源のみで稼働しますので、オペレーションを簡便化できます。

環境にやさしい技術

省エネルギー

省エネルギーで液体の濃縮・分離・精製・リサイクルが可能です。超音波霧化分離はCO2や廃棄物の削減にもつながる技術です。
蒸留法と比較した場合、蒸留が液体(溶液)を加熱して気化させるエネルギーが必要なのに対して、超音波霧化分離は液体を同じ液体である霧(液滴)に変化させるだけであり、そもそも必要なエネルギー量が圧倒的に少なく済みます。

分離が困難とされた液体も分離できる

濃縮還元ジュース

従来技術では分離が難しいとされた液体でも分離・精製・濃縮ができる場合があります。
・気液平衡に依存しないため、共沸混合物の分離が容易に行えます。

共沸(きょうふつ)混合物とは、沸騰時に液相と気相が同じ組成になる混合溶液のことです。
共沸混合物の場合は、沸騰させても組成が変わらず、沸点も一定のまま変わりません。
このため一般的な蒸留では分離を行うことができず、抽出蒸留や共沸蒸留による分離が行われてきました。

・低温で分離するため、食品や香料などの熱に弱い液体でも分離・精製・濃縮が可能です。
・低温で分離するため、重合を避けなければいけない場合でも分離・精製・濃縮が可能です。

重合(じゅうごう)とは、同じ化合物の2個以上の分子が結合して、整数倍の分子量をもつ新たな化合物(重合体、ポリマー)となる反応のことです。

浮遊物質、コロイド物質、溶解物質といった固形物が存在する場合も、分離・精製・濃縮が可能です。

低温運転なので安全

手で触れても熱くない

装置表面は手で触れることができる温度なので安全です。病院など高温稼働が好ましくない場所にも設置することができます。

設備の運用がラク

並列運用の霧化槽ユニット

ユニットを並列運用させる場合、運転しながらの部品交換が可能であり、メンテナンスが容易です。
また、電気で稼働するため、オンラインで装置の監視が出来、稼働状況やエネルギー使用量の把握がスムーズです。

稼働開始が早い

スイッチONですぐ稼働

スイッチONで、瞬時にミスト化が始まります。
超音波に照射された液体はすぐにミスト化をはじめるためです。
スタートアップ時間が短く、動かしたい時だけ稼働させることができます。
※従来の蒸留法における蒸留塔では、焚きっぱなしが常識でした。

導入後のアップグレードが容易

廃水処理用の大規模装置の例

霧化槽がモジュール構造なので、モジュールの追加により導入後の能力アップが容易です。
実験用の小型サイズから、中規模、大規模まで対応可能です。

超音波霧化分離の実用化検証試験(有償)

超音波振動子
超音波振動子1.6MHzと2.4MHzがあります。表面をステンレス薄膜で被覆してありますから、耐食性にも優れています。

霧化のしやすさは粘度や表面張力に依存します。いずれも液温度によって相当変化しますが、水の場合、蒸留法の蒸発潜熱(蒸発エンタルピー)の1/5程度の所要エネルギーで霧化が実現します。
お客様がお考えの混合溶液について、霧化分離が有効であるかどうかは、弊社にお持ち込み頂くことであらかじめ調べることが可能です。これまでのところ、弊社で実用化しているのは超音波霧化のみですが、液体の霧化自体には様々な方法論があり、将来は他の方法による霧化分離も実用化する計画ですので、その時々でお客様のテーマに最適と思われるご提案をさせて頂きます。
まず弊社の霧化分離装置で分離特性と霧化速度の測定試験を行います。結果が良好であれば実用化を検討できます。超音波霧化の場合、振動子ユニットの数を増やすことにより、中規模・大規模な装置も実現できます。
生成したミストの回収方法も、混合溶液の成分によって異なりますので、液の種類によって最適な回収方法をご提案させて頂きます。(有償にて試験を承っております。お気軽にご相談下さい。

霧化効率は溶液の粘度と温度で決まる

グラフ 超音波tention
超音波霧化現象は、溶液の表面張力と粘度に大きく影響を受けます。したがって、霧化速度は液種や溶液温度により異なってきます。

グラフ 超音波viscosity
霧化所要エネルギーは、超音波振動回路に投入した電気エネルギーを単位時間あたりの霧化速度で割ったものになります。